プーケット 脳天気男のリゾ・ラバ探し 1993年12月 |
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週刊誌に「プーケットでビーチ・ボーイを漁る日本人ギャル」という見出しが載った。 これだ! 週刊誌を一気に読むと、ポーンと放り投げ、しばし考えた。そのうえ、「張り子のトーラ、ホーイ、ホイ」ときた。機嫌がいいと、上々台風の一節を口ずさむ。 にやり。週刊誌の記事を反芻している。 日本人ギャルがうさうさ遊びにきている。だから、親しくなれるはず。記事の一部分しか、自分に都合のよいところだけしか、記憶していない。 それなら、おいらだって、相手をしようじゃないか。もう、頭の中は飽和状態である。成田行きの航空券、12月は高くなるのに、気にしない。いや、気にはしますが。そこに楽しみがあるのならば……。 |
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プーケット。 パトン・ビーチで寝そべっている。いや、眠ったふりをしながら、砂浜を歩くひとをチェックしている。昼間、タイ人は浜辺にやってこないな。冷房の効いた部屋でお昼寝だな。 浜辺では白人のカップルがビールを飲んだり、体を焼いている。皮膚がんの心配はないのだろうか? 女性は腰まで水着を下ろしている。足などは上野動物園にいる象さん顔負け、いや皮膚負けするほどのざらざらだ。 そっか。おれは、日本人ギャルを探しに来たんだっけ。日本人は見当たらない。どこに消えたのか。週刊誌に書かれたギャルは? 炎天下で待っている。皮膚が赤くただれ始めた。熱帯の太陽は厳しい。 突然、赤く焼けただれた貧相な体がピクン。右の方から白のTシャツ、紺の短パン、3人が現れた。リゾ・ラバ探しのギャル、に違いない。 サングラスを投げ飛ばし、体を伸ばす。ついでに、歯も剥きだす。白い肌の周りには、すでにタイのビーチ・ボーイが群がっている。 「ここに腰掛けて」 「ビール、飲む?」 どうもビーチ・ボーイはイケメンだし、長身だし、親切だ。こっちは色は白いが、痩せているし、歯は出ているし、漫才師の坂田さんのような風貌だ。おまけに、足の指は鶏のように広がっている。つまり、典型的な日本人だ。文句あっか。 「やあ」 体中、愛想を振りまいて寄っていく。着古したTシャツ。水着は15年前に買ったものだ。そこから出ている脚は、極めつけのO脚。 「キャー」 日本人ギャルは逃げる。 |
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まるで、ユウレイを見たかのような驚きだ。 失礼な! 憤然としながら、ビーチ・チェアに戻る。客観的に自分の姿を見られないのだ。不幸だ。 午後6時、アンダマン海に太陽が沈んでいく。真っ赤な太陽……。風が冷えてきた。白人たちはホテルに戻ってしまった。わたしはひとり待つ。週刊誌の記事を信じて。 |
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