インド、ダージリン エベレストとカンチェンジュンガに近づく 1994年4月 |
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サンダクプー、3638メートルまで |
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ダージリンから四輪駆動車をチャーターして1泊2日でサンダクプーの頂上(3638メートル)まで行くことにした。そこから世界第3位の山、カンチェンジュンガが見えるし、エベレストの山群も拝めるらしい。 予約はダージリンの旅行代理店に電話した。当日の朝、8時にダージリンのホテルに来てもらった。一行はワタシの他に、運転手、その助手、ガイド、その助手の4名だ。幌をかぶせたジープで出発だ。 |
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白人の登山は由緒正しい。 |
5分ほど走ったところで、助手が車から降りてサモサを買いにいってしまった。分かる。空腹じゃ山頂まで行けない。10分走ると、運転手は友人が歩いているのを見つけ、話を始めた。次は、5分走ると、車が故障した。30分走るとパスポートのチェックポイント。お役人が起床するのを待って、チェックを受ける。 まだある。5分走ると、町のチベット人を同乗させるので待つ。とにかく待つのだ。インド旅行は待つことから始まる。念のためですが、ジープをチャーターしたのはワタシなんです。町のチベット人ではありません。 |
道路が終わり、登山道に入ったとき、すでに疲労困憊だ。精神敵にですがね。まだ、海抜は1969メートル。3638メートルまで登るのだ。車ですけど。 霧がでている。折角、車をチャーターして山頂まで行っても見えなかったらどうしよう。目を凝らしても、霧は晴れない。 「俺たちは、あの山を越えるんだ」 見上げるばかりの急坂が一直線に山頂に続いている。滑ったら、谷に落ちてしまう。 |
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マグノリア |
「ナーバスにならないで。運転手はベテランだから」 インド訛りの英語だ。でも、出発前に拝んでいたよな。インド製のジープだし。頼れるのかな? もう一度、運転手はハンドルから手を離し、両手を合わせる。アクセルを踏むと、ぐいと動き出す。ワタシの短い足が持ちあがり、体重が背中にかかる。 ジープ登山の開始だ。歩いて登る人たちを追い抜いていく。ちょっと恥ずかしい。彼らは登山靴を履き、リュックサックだって背中に背負っている。 |
わたしはシャツ、紙包みには日用品を入れ、足元はスニーカーだ。 正当な登山者を追い越すときには、両手で顔を覆ってしまう。だって、汗をかきながら登っていく白人の視線がきついんだ。そりゃ、わかっています。なまくらな登山をしていると。 ここら辺りで、助手の意味が分かってくる。ジープから飛び降り、車輪の下に石を置き、車が谷底に落ちないようにする。やはり、助手は必要なんだな。何度も小刻みにターンを繰り返し、ハンドルを切りながら登っていく。 |
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このジープで登って行きます。 |
さっきの集落が下に見える。中国がチベットに侵攻したときに逃げてきた人々の家だ。歩けば3時間の道のりを1時間で 別の集落にやってきた。ここでお茶。背中にあたる太陽が暖かい。 1時間登ると、1時間のお茶。インド領からネパール領に無断で入る。両側にはマグノリアの花が海の白い波のように浮かんでいる。 3072メートルの峠を越え、高度を上げていく。鼻に金の飾りをつけ、、頭から荷物を吊るした人がゆっくりと歩いている。どこまで行くのか。集落は見当たらない。 |
運転手、ガイド、助手たちと |
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サンダクプーの頂上で |
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ダージリンを出発してから、7時間30分後にやっとサンダクプー山頂に到着した。標高3638メートルだ。 「エベレストはどっち?」 「右手の奥、ここから140キロメートル先だよ」 「カンチェンジュンガは?」 「正面に……」 「見えないねえ」 見えるのかな? いつになったら見えるのだろうか。見えなかったら、何のためにここに来たのか分からない。 |
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エベレストが見えた。 |
山小屋にいてもすることはない。だれもいないんだから。わたしたちだけ。テレビなんかないし、電気もない。だいたい、男が5人で何をしようというのか。 ジャンパーをひっかけて外にでる。普通の速度で歩くと胃のあたりがむかむかしてくる。ゆっくり歩いて小屋で蹲っている。 とうとうエベレストもカンチェンジュンガも姿を現さない。暖炉に炭火が赤い。パサパサ飯にカレーをかけて夕食をかきこむと、午後6時半には眠り込んでしまった。 |
カンチェンジュンガも見える。 |
真夜中、吐き気と下痢で目が覚めた。高山病だ。蝋燭をつけようとしたら、ベッドから転げ落ちてしまった。暖炉の炭は消えている。凍るように寒い。 トイレは外なんだ。体を折り曲げ、吐きそうなのを耐えながら、這って小屋を出る。外に出ると、間に合わない。ズボンを脱ぎ、喉に指を入れる。 体中の食べ物を出してしまうと、空を見上げる余裕がでてきた。星がいやに低い。エベレストの方角に星が見える。 |
翌朝、4時。寒くて、寝ていられない。東の空が明るくなった。太陽の光が赤い。高山病でふらつく足をものともせず、駆け出す。寒いのでジャンパーの上に、寝袋を巻いている。首にはカメラを3台。 正面にカムチェンジュンガが黒い姿を現している。次第に太陽の光を受け、赤くなってくる。エベレストが遠くに現れる。 「やったぞ」 おいらは前世で悪いことはしていなかったんだ。 |
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シャッターを押そうとする。下りない。望遠もそうだ。指先が凍ってしまう。広角に代えても、シャッターは下りない。ダメだ。なんて不幸なんだ。折角、寒さに耐えているのに。やっぱり、前世で悪いことをしたのだろうか。 エベレストもカムチェンジュンガも白い雲に囲まれていくじゃないか。早くシャッターを押さなきゃ。でも、シャッターは下りない。 |
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山小屋にて |
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カレーを食べる。 |
わたしの部屋 |
高峰が見えてきた |
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夜明け、エベレストとカンチェンジュンガが見えた。 |
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ダージリンに戻る チェックポイントにて |
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チェックポイント |
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途中の休憩所にて |
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お茶屋 |
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