インド、カルカッタ

「カルカッタ パラゴン・ホテル」
谷恒生著の舞台を歩く

1994年4月



カルカッタ市内
カルカッタに到着し、イミグレーションに入った途端、人の波に翻弄された。入国作業は遅々として進まない。コンピュータを導入したからだ。その最新鋭の機械も、疎かにしてはいけませんとばかり、木枠で囲ってある。

別に触りたくもないが、インド政府にとっては大切な機械なのだろう。
「滞在の目的は?」
優しい表情で、お嬢さんに問われる。
「観光です」
「どこへ行くの?」
検査嬢は執拗だ。早く入国のスタンプを押せよ。だが、言えないでイライラしている。
「ガールフレンドはいるの?」
「はい、30人」
「インド人?」
「そうです」
ポーンと旅券が投げ返された。




空港の建物から出れば、また人の渦だ。
20年ぶりのカルカッタ。以前と変わらない。ぼろを纏った人が、荷物をふんだくろうとする。乞食が足にすがりつく。10米ドルよこせと叫ぶ少年。
「ください」と言え。
そこをかい潜り、都心のホテルまでタクシーを奮発する。

間断なく鳴るクラクション。黒煙をあげる自動車。新型のアンバサダーというタクシーなのだが、冷房がついてない。
開け放った窓から、トイレの臭い、人いきれ、熱気、叫び声、クラクションが飛び込んでくる。




インド人は誇り高い。
我々は世界一の科学技術を有している。思想だって世界一だと。だが、空港から乗った車はどうだ。まず、タクシーから世界一にしてほしい。そして、秩序も世界一になって欲しい。ぐちゃぐちゃなんだから。

文学だって世界一だと言う。確かにそうかも。でもキャッチ・コピーは最も美味いコーラ。最高に美味いチョコレート。最も古い博物館だ。単調でワンパターンなキャッチ・コピーだぞ。
乞食だって、恵んでくださいなんて柔なことは言わない。10ドルよこせ。ギブミーではない。 この厚顔さと大胆さこそインドなのだな。







谷恒生の「カルカッタ パラゴンホテル」の舞台
「カルカッタ パラゴン ホテル」は谷恒生の名作である。カルカッタを訪れるならば、何がなんでもこのホテルに来なければ……。カルカッタでほかに何を見物すればいいのだろう。

ガードマンのおじさんに挨拶して中庭みたいなところに入っていく。薄汚れた文庫本とインドタバコをテーブルの上において、日本人が考えている。本とタバコがきちっと平行に置かれている。几帳面な日本人じゃないか。

部屋は開け放たれ、ベッドが6台ある。この日本人たちはインドに沈没してしまったのか。




 看板に「カンパ コーラ」とある。
    コカ コーラではありません。




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